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伝説が始まる……?

The Elder Scrolls: Arena は知る人ぞ知る、TES シリーズ最初の作品。
1994年というメディーバルな時代に MS-DOS(といわれてもよくわからないが、古い OS らしい)用ソフトとして作られたものをエミュレーターを使い現代の PC にそのまま移植したのがこのゲームだそうです。
つまり、すべてが古い。なにひとつ変わっていないその古さ。30年前そのままの古さです。

古いことは古い。しかし、ゲームシステムの話をすると、その古さがシンプルなデザインという方向性に意外とよく働いていて、特に次作の TES II: Daggerfall などと比べるとかなり遊びやすい出来になっています。
具体的には、定義としては 3D ゲームではあるものの、システムが単純すぎるので、三次元とはいってもまだ高低差の概念があまり意識されておらず、歩くのはまっ平らな地形で、階段を使って1階2階、地下1階、といった具合で移動する仕組みになっているため、グラフィックが古くても地図が読みやすく意外と遊びやすいのです。この点は現代人たるわれわれがプレイするにも障害にならないためおすすめしやすいポイントです。I: Arena、II: Daggerfall は DOSBOX エミュレーター版のフリーウェアとして公式で公開されているのですが、公式のものはいろいろ細かい問題があり、最古参最大手 TES ファン Wiki の Unofficial Elder Scrolls Pages[en.uesp.net] で用意されたバージョンを遊んだほうがよかったりするのですが、Steam 版は DOSBOX のエミュレーターもいろいろ設定済みらしくダウンロードしたらすぐに遊べたので、Steam 版で遊ぶ点で不便なこともおそらくないと思います。

ストーリーについてはどう触れたものか考えましたが、これはなんというか、まだ「われわれの知るいわゆるエルダースクロールズ」ではないような感じがします。以下、2023年にもなってこんなゲームをやろうかと考えるような人は TES の基本的なことはだいたい承知しているだろうという前提で、用語の説明などは極力省いて述べます。
タムリエルの世界地図と皇帝ユリエル・セプティム7世の名前だけは現在も残る設定として存在するのですが、それ以外はまだ全体的に TES ではありません。皇帝がジャガル・サルンという悪のバトルメイジに誘拐されなりすまされて暴政が行われた結果、世は乱れ、世界はもはや闘技場、すなわちアリーナと化した! というのが筋書きなのですが、そもそも皇帝の政治はシロディールにしか力がほぼ及んでおらず(シロディールはたしかに雰囲気がどことなく暗いが)、シロディールも含めて全体的にそこまで世は乱れていないので、タイトルの意味がよくわからない。
ゲームとしてのストーリーもきわめてシンプルで、まだあまり特徴がない帝国の各自治州(スカイリムとかモローウィンドなどの帝国の従属国)に一州ずつファストトラベルし、キーアイテムの欠片をひとつずつ集めていくというものです。そこに自治州独特の要素などはなく、まるで変わらない8州にお使いに走るだけの話です。なにしろカジートやアルゴニアンですら人間の姿をしているありさまでして、そこに帝国各地を旅する喜びはありません(一応なぜカジートが人間のような姿なのかは生まれと月の満ち欠けが容貌を変えるもので、III 以降に登場する猫人間はシュセイ・ラートという旅好きの種族だ、などという思いっきり後付けの設定がありますが、そんなものはこの時代に設定が固まっていなかった言い訳に過ぎません)。

ではこのゲームのなにが正しいのか、なぜ TES ファンがこのゲームをやらなければならないのか、という話になりますが、それはただ皇帝ユリエル・セプティム7世が収める帝国をプレイヤーがはじめて救うことができる、その機会をわれわれに提供してくれているからです。はっきりいいますが、エルダースクロールズというゲームは I: Arena から始まり IV: Oblivion で終わったシリーズです。このエルダースクロールズというシリーズは本来、第3紀最後の皇帝ユリエル・セプティム7世の一代記として作られた物語であり、各ゲームの主人公はこの皇帝に仕え、その意志(I から III)、あるいはその遺志(IV)を実現するための存在にすぎません。プレイヤーの操作するキャラはその結果英雄になっただけであり、エルダースクロールズの本物の「主人公」とはユリエル・セプティム7世というひとりの人物なのです。V: Skyrim というのはあくまでこのシリーズが売れすぎたために無理やり続けるため、第4紀まで200年も飛ばしてユリエル7世亡き後の新たな世界を構築した話なのです。

などと長々と私論を垂れ流しましたが、要約すればつまり、今どきのゲーマーらしく V: Skyrim しかやらない、TES の歴史など知る必要はない、ということであればこの古臭すぎるゲームをやる必要はありません。しかしせめて IV: Oblivion ぐらいは今からでもやってみて、エルダースクロールズとはどういうシリーズなのか、弱い人間ながらも高潔な意志をもって必死に帝国を治めてきたユリエル7世という人物のことを少しでも知りたければ、このゲームをやってみてもいいかと思います。ゲームは単純でそれほど難しくはない。ユリエル7世もエンディングぐらいにしか出てこない。それでもあなたはユリエル7世がはじめてこのシリーズに生まれいでた姿を見ることができる。このゲームをやるかどうか、それはそのことに価値を見いだせるかどうかである、と断言できます。

偉そうにシリーズを語っていますが、わたしも V: Skyrim ではじめて The Elder Scrolls シリーズを体験した人間です。その体験があまりに感動的だったため、わたしは I: Arena から TES を徹底的にやりつくそうと考えたのです。ですから、このゲームをやるかどうか、楽しめるかどうかはあなたの TES 歴とはあまり関係ありません。V しかやっておらずもっと深く TES を知りたい、IV: Oblivion という物語的には間違いなく TES 史上最高傑作にしてユリエル・セプティム7世最期の作品を遊ぶにあたって一番の精神状態に持っていきたい(補足すると、わたしは V をやったあとにすぐやりたくなるはずの IV をあえて遊ばず、I から IV までシリーズの順番にプレイするという遊び方をした結果、IV という最高傑作を一番楽しめる状態で遊ぶことができました)、あるいは IV をプレイ済みでもユリエル7世および彼の治めた帝国についてもっと知りたい、親しみをいだきたい、という方にはぜひおすすめしたい作品です。何周も遊べるゲームではないですが、一周さくっとプレイして TES 第一作の雰囲気を味わってほしい。わたしとしてはそういうことです。よろしくお願いいたします。

一応おわりに書いておきますが、このゲームを日本語化する手段はなく今後も日本語で遊ぶことはまずできないかと思います(II は可能性がありますが、I はなさそうです)。ただシステムは単純だしストーリーはそれほど重要ではなく軽い日本語訳などはウェブ検索で見つかると思うので、英語が苦手でもそれほど気負いせず遊べると思います。たかが言語の問題でためらうぐらいならぜひ一度遊んでみてください。
Posted 9 July, 2023. Last edited 11 July, 2023.
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8.3 hrs on record (8.1 hrs at review time)
BABA IS NOT YOU
YOU IS WEAK
YOU IS SINK
YOU IS MELT
YOU IS FALL
YOU IS EMPTY
YOU IS NOT WIN


---

今までフルプライスのパズルゲームからインディー系アドベンチャーゲームなどに含まれるミニゲームなどを含めれば何十何百ものパズルゲームをやってきた経験がありますが、このゲームを遊んでみたとき、はじめて「これは勝てないな」と素直に思いました。
自分の思考形態に合っていない、とかそういう言い訳ができたら許された気持ちになれますが、「負けた」と思ってしまった以上これはわたしの敗北です。そこに言い訳の余地はない。

負けた言い訳ではないけれど、このゲームについて語ることはできるかもしれない。
このゲームは一言でいうと、まるで柔弱な外面で人を挑発し、寄ってきた獲物を言葉の刃だけで退散させる、まさにディオゲネスの思考のようなゲームです。
パズルゲームが特段好きというわけではないがやってみるか、そう思ってつい遊んでしまうと自尊心を大いに損なう可能性があります。
なぜならパズルが非常に難しいからです。難しさという刃があなたの自尊心を容赦なく斬りつけるからです。その刃を切りつけてくるのは誰か。それは BABA という白くふんにゃりとした、あえて形容すれば犬のような生物です。要するにこの生命体はありたちからしてディオゲネスの抽象化であり具体化なのです。

このパズルは難しい。一晩寝かせて考え直してみよう。難問の壁にぶち当たった際に多くの人々が頼る解決策ですが、寝て覚めてまた挑んだときに二の太刀の刃を食わされる。そういったことが多くあります。なぜならパズルが非常に難しいからです。
このパズルは解けない。解けるパズルから解いていこう。そうして進めていくと、次のマップのアンロック条件は最初のうちは緩いので、それなりに進めていくことができます。
とはいえゲームとしては当たり前のことですが、進めば進むほど難しくなってくる。クリアできるパズルの数も減ってくる。そして能力の足らないものはついに次のマップへ進む権利すら得られなくなる。序盤に妥協したのは結局は自分の能力のなさなのだ。一度諦めたものが前に進むことができるか。人や獣の生のありかたが問われているようだ。かの大王アレクサンドロスを含め、かつてディオゲネスに勝てた人類は存在しなかった。これはそのぐらいの水準を要求するゲームとなっています。

一般的なパズルが得意という数学的な論理的思考に自信のある人にはぜひこのゲームで自分の能力を試してほしい。
あるいはミクロ的な視点から世界の成り立ちについて深く考えることができる哲学者の方にも試してほしい。BABA の世界はきわめて些細な違いで虚無から勝利まで大きく変化するので、主語・動詞・補語の関係性のなかにある可能性を見いだしてほしい。

文字数の関係上、意味の希薄なレビューとなってしまったが、パズルの基本的なルールなどは日本語 Wiki などにまとめられているのでそちらを参照してほしい。ここでわたしが問いたいのはあなたの覚悟なのです。あなたは BABA ですか? あなたは勝てますか? このゲームは究極的にはそれにつきるということです。健闘を祈ります。
Posted 19 June, 2023. Last edited 19 June, 2023.
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0.2 hrs on record
Originally posted by Louis Antoine de Saint-Just:
On ne peut point régner innocemment : la folie en est trop évidente. Tout roi est un rebelle et un usurpateur.
No one can reign innocently: this insanity is too obvious. Every king is a rebel and usurper.
人は罪なくして統治しえない。かかる狂愚は明白である。あらゆる王は叛徒であり簒奪者である。

Pro-révolution
  • You can see the tyrant guillotined.
  • 暴君がギロチンにかけられるところを見られる。
Contre-révolution
  • Historical Revisionism: Bourgeoisie wasn't, falsely as the opening scene stated, winner of the Revolution until the Thermidorian Reactionaries had usurped the Republic (at least after the Revolution of August 10).
  • 歴史修正主義: オープニングシーンの主張は欺瞞であり、ブルジョワジーはテルミドールの反動で共和国が簒奪されるまで勝者ではなかった(少なくとも8月10日の革命以降は)。
  • Historically Inaccurate: Louis the Citizen was guillotined at 10 a.m., and before that dragged to the Place of the Revolution in the morning, not to somewhere on a hill nor at midnight.
  • 歴史的に不正確: 市民ルイは朝方に革命広場に連れていかれて午前10時にギロチン刑に処されたのであり、どこかの丘でも真夜中でもない。
  • Ignorance and Insincerity make a game dull: If you want to make a game on the late 19th Century of France, use Didot as your font and do not use insipid Gutenberg (even Mercule de France published under the Ancient Régime had used Didot).
  • 無知と不誠実がゲームをだめにする: 19世紀後半のフランスを舞台にしたゲームを作りたいのなら、せめてフォントはありきたりのグーテンベルクではなくディドを使え(旧体制期の『メルキュール・ド・フランス』でさえディドを使っていた)。
  • As a matter of fact: Simply it isn't fun enough to be worth $1.
  • 真面目な話: 単純に100円払う価値があるほど面白くない。
1/21. Would love to guillotine the tyrant again.
Posted 23 June, 2018. Last edited 24 June, 2018.
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3.6 hrs on record
一般にポイントアンドクリック式アドベンチャーゲームは物語寄りかパズル寄りかでゲーム性が二分されるが、この Through Abandoned 2. The Forest はかなりパズル寄りのゲーム。なぜか雪山で寝ていた主人公が目を覚ますと目の前には扉がある。入ってみるとその先は不思議な機械仕掛けでいっぱいの森で、主人公はパズルを解きながらその森、ひいては今いるその世界の謎を解き明かしていく。

率直にいって、物語性が薄すぎていまいちのめり込めなかった。P&Cゲームでは物語とパズルのバランスが重要で、どちらかに偏りすぎた場合、その偏った側の成分がよほど優れていなければプレイヤーに退屈を感じさせてしまうが、このゲームのパズルはただただ難解かつ面倒で、個人的には解いていてそこまで楽しいものでもなかった。いや、面倒くささをまったく感じさせないP&Cというのはなかなかお目にかかれないものではあるんですが……。
とはいえ定価は300円と安価だし、いかにもおカネがかかってなさそうな手書き風のアートワークも素朴で味があり、独特の雰囲気を感じさせる。物語はあってないようなものなので英語ができなくても問題ない(パズルを解くのにも必要ない)し、周回して実績コンプ(全シークレット回収)を狙っても(攻略動画を参照すれば)数時間でさくっと終わるゲームなので、お手頃かつ難解なパズルP&Cをお求めの方にはおすすめできそう。
Posted 4 January, 2017. Last edited 4 January, 2017.
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11.2 hrs on record (11.2 hrs at review time)
なんというか、物語はそれなりに面白いのですが、読後感がすっきりしない話でした。

ある朝、主人公は見知らぬ部屋で目覚める。どうやら頭でも打ったらしく昨晩の記憶がない。昨晩どころか過去を思い出そうとするとひどく頭が痛む。彼を介抱してくれた少女(バナーに描かれているヒロイン)によると、過去を知ろうとすることは罪らしい。いわく、この世界は神が作りたもうた完璧で争いの一切ない平和な世界だという。そうではなかった昔のことなど知るべきではないというわけだ。そんな世界がありうるのかと疑問に思う主人公。しかしまたもや少女によると、疑問に思うことはむち打ち刑に値する罪だと聖典にあるらしい。なぜそれが罪になるのか考えること自体が罪なのだ。主人公はなにかひっかかるものを覚えながらも、信者の義務という朝の礼拝に参加する。そこでほんの些細なことから騒動に巻き込まれ、主人公は聖典に違反した咎で教会から命を狙われる身となる。主人公は仕方なしに追っ手から逃げながら、この悪夢のような町から脱出するために、手掛かりを求めるうちにこの世界の謎と対峙することとなる。

あらすじはこんな感じですが、あなたはここからどういう物語を想像しますか?
基本的に宗教的ディストピアの世界観から練られた本筋は的を外さず面白いのですが、最終的な物語の回収の仕方が雑に思えました。いうなればループものでループを解決せずに終わるというか。ほぼネタバレに近いですがそんな感じです。3時間やそこらで終わるゲームならそれでもいいのですが、私の場合は自分の英語力のなさもあいまってクリアに10時間以上もかかってしまったので、ここまでやってきてこれで終わりといわれるとどうにも高まった気持ちのやり場に困るような話でした。

また最近はこの手の「アドベンチャーゲーム」にはミニパズル要素がもはや必須となりつつある風潮で、それ自体は一向に構わないのですが、このゲームのミニパズルはどうにもしっくりこないものがあります。答えがあからさますぎたり、仕掛けがあまりにくだらなかったり、要するに解いてもこれといったカタルシスがないのです。

低価格のインディー作品でシナリオもそれなりの長さがあるのにしっかり脇役も含めてボイスアクティングがついていたり(中国語なので演技の上手い下手は私にはわかりませんが)、丁寧で美麗なキャラクターイラストや雰囲気に合った上質な音楽が用意されているところは評価に値します。背景画についてはキャラ絵の細密さといまいちマッチしておらず、もう少し頑張れたのではないかと思わなくもないですが。それから、テキストの英語もなんというか、最大限やわらかい表現でいえばもう少し校正が必要に思えます。仮に日本語版が出るとして、あるいは有志が翻訳するとしても、この英語版からの重訳ではあまりいい結果が期待できません。原語である中文版からの翻訳が必要に思えます。

上に挙げたとおりよい点もそれなりに多いので、「おすすめしますか」と聞かれて「いいえ」を押せるほど否定的にはなれませんが、うーん……。点数化するなら5.5/10点といったところでしょうか。
Posted 10 November, 2016.
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3.2 hrs on record
「一見(コンセプトアートなどから素直に想像)すると普通のゲームだが、実は隠された大きな秘密が……」といった感じで本筋を大胆にひっくり返すプロットは、どうも最近インディーゲーム界隈の隅っこのほうで静かに流行しているらしい。代表的な例としては Dr. Langeskov(略) と Pony Island の2作だろうが(後者は筆者未プレイですが)、これらはあくまで成功した例だ。

そうした例と対照的に、Scapeland はいわば失敗に終わった「ひっくり返し系」の例として記憶されるべきゲームだ。
この手のゲームでネタバレは禁物だとお叱りをうけるかもしれないが、とにかくそのネタの部分がどうしようもなくダメダメなので、バレでもなんでも書かざるをえない。このことは先にお断りしておく。ようするに、Dr. Langeskov のレビューのようにノリノリでネタに乗っかってしまっては、「だまされた」ユーザーにかえってお叱りをうけかねない程度の出来なのだ。

Scapeland はトレーラーやスクリーンショット、商品紹介文などをみれば「ほのぼの農業ゲーム」の類が想像できるようにされている。実際ある時期まではほのぼの農業ゲーム一般にみられるルーチン(収穫、種の購入、種まき、収穫、剰余利益で上ランクの種を購入……)をこなし、時を進めていくことになる。だが順風満帆にみえたほのぼの農場は突如として謎の軍隊に襲われ、主人公は逃避行を余儀なくされる。謎の軍隊の追跡を逃れ、どこかも知らぬ先へと逃げ続ける。これがこのゲームに隠された本筋であり、ゲーム本来の楽しみを損ないかねない重大なるネタバレでもある。とはいえ、ネタバレといってもたいしたネタがあるわけではない。主人公がなぜ追われているのか、なぜ逃げねばならないのか。主人公を追う謎の軍隊はいったい何者なのか、何が目的なのか。こういった謎は一切明かされることがない。しかしそれはあまりに退屈で、謎を追求したい好奇心よりも話の展開に飽きる方向に早々に天秤が傾いてしまう。

なぜここまで堂々とネタバレをするかというと、この本筋のステルスゲームがどうしようもなくつまらないからだ。実際のところ、ステルスゲームというほど上等なものではない。黄色く表示されている兵士の視界に入らないよう動き、ときには物陰に入って巡回する兵士の視界から隠れたり、反対側に石を投げて兵士の視界を他方に向けたあいだに通り抜けたり、立ち止まって動かない兵士の背後を足音を立てないよう歩いて通り抜けたりといった具合で、敵の無力化などこちらから攻撃的に抵抗できる手段はない。言い換えればオブジェクト回避パズルのようなものだ。これがただひたすら退屈なうえに無駄に難易度が高く、チェックポイントもないので失敗して最初からやり直しの順を繰り返すとたちまちストレスが爆発する。

苛立ちを抑えながらもかなりの忍耐力を動員して最初のステルスマップを抜けると、次は3レーンの道を左右への移動とジャンプ・スライディングを駆使しながら走り抜けるアクションシーンに移る。これは反射神経が要求され、筆者のなによりの苦手分野ではあるのだが、似非ステルスゲームに対する苛立ちからの解放感も手伝って、前のマップよりはよほど面白く、ここへきてこのゲームに対する私のなかでの評価が一変したかに思えた。なるほどこういう形でさまざまなミニゲームに順番にチャレンジさせるのは実験的で面白い試みだと。しかしその期待はこのステージをクリアしたのちに見事に裏切られた。次のステージはまたもや似非ステルスゲームで、そのステルスの難易度もチェックポイントなしでクリアさせられる1マップの広さも増し増しであった。ここで10回ほど失敗を繰り返し、ついにステージの最終関門らしき場所までたどり着いたところでまたもや失敗して開始地点に戻された私はこのゲームをあきらめることにしたのだった。

結論としては、このゲームはそもそも農業ゲームではないので間違えて買ってはいけないし、タグに付与されているような「実験的」な面としてみても明らかに失敗しているので、私としてはこのゲームをおすすめすることはできません。お目当てに応じた別のゲームを買いましょう。(画像付きレビュー全文[invalid-gamer.blogspot.jp]
Posted 5 October, 2016. Last edited 5 October, 2016.
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3.1 hrs on record (2.8 hrs at review time)
Gone In November は暗く救いのない、筋の難解な短編アドベンチャーゲーム。
主人公は急性白血病および精神錯乱と診断され、数年にわたって治療を続けるも、高額の医療費のためについに預金の底がつき、これ以上の治療を望めなくなり、医者に余命数日という宣告を受けたところで鎮痛剤のみを処方されて家に帰される。家に待つものは誰もおらず、やることといえばサボテンの手入れぐらいのもの。眠りにつけば、精神の病からくるものなのか、ひどい悪夢をみるばかり。その悪夢のなかで絶えず思い出すのは「彼女」のことだ。悪夢のなかで主人公はひたすら空間を歩いていくが、いったい過去になにがあったのか、過去の記憶が思考を代替する文字となって画面に流れるように表示されていく。

文脈の不鮮明な文章が途切れとぎれに現れては読み終える間もなく消えていく。このゲームの難解さはこの点からきている。レビューやフォーラムの投稿などでもその難解さは繰り返し指摘されており、私にとっての外国語である英語だからというわけでもないようだ。絶えずスクリーンショットを撮り、あとからじっくり見直すことで文脈の把握を試みても、やはりひどく難解で筋をとらえがたい。とはいえ、死にゆく人の狂気などというものはそんな脈絡のないものなのかもしれない。
しかしこのゲームの味として、こうした狂気の内面描写がどこか美しく感じられるのだ。心を病み、過去になにか大きな悔いを残した人が、あと数日の命といわれて何を思うか。きわめて挑戦的なテーマだが、しかしアドベンチャーゲームのかたちにうまく流し込めているのではないかと思う。

ひとつ残念なのはボイスアクティングがないことで、ただひたすら長い文章を自分の目だけで読まされることがやや苦痛だということは認めざるをえないところだ。とはいえ音声があったらあったでまた違ったゲームとなっていただろうし、今のこのゲームのなんともいえない寂寥感からくる美しさが損なわれていたかもしれない。それに、そもそもが98円のゲームなのでそこまで求められるものではないだろう。

翻訳の方法は簡単そうなので、個人的に日本語化に挑戦してみたいとは思っているが、それぞれの言葉の文脈を正確に理解しなければ翻訳もおぼつかないので、私にそれがこなせるかはいまいち自信がない。なので私の仕事にはあまり期待しないでほしいが、ともあれ現段階でも英語を読むだけのやる気があり、死や心の病といった問題に関心のある人にはぜひおすすめしたい。(元記事[invalid-gamer.blogspot.jp]

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追記: テキストの日本語翻訳は一応完了しました。こちら[invalid-gamer.blogspot.jp]にて公開しています。
Posted 28 September, 2016. Last edited 2 December, 2016.
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1.4 hrs on record
Originally posted by 研究社 新英和中辞典:
pointless
形容詞
1 先のない,鈍い.
2 無意味な; 無益な,要領を得ない.
It's pointless to try to persuade him. 彼を説得しようとしてもむだだ.
3(競技で)無得点の.

Pointless はその名にふさわしく、恐ろしいまでにpointlessなゲームです。
ゲームを起動するとまず PRETENDO というロゴが現れますが、デベロッパーの名前などとはまったく無関係であり、往年の携帯ゲーム機のパロディと思われる(ニセテンドーとでも訳すべき?)pointlessなジョークです。

ゲーム内容はというと、Steamストアページには Clicker タグが付いていますが、一般にいう Clicker(Adventure Capitalist や Clicker Heroes など)とはまったく性質の異なるもので、おそらくあまりのゲーム内容のpointlessぶりに、ほかに形容しようがないためにつけられたものと思われます。では実際にどういうゲームかというと、画面に現れたドットをクリックするだけのゲームです。本当にそれだけなのでそうとしか表現しようがなく、なるほど Clicker とは物は言いようだなと思います。

画面に現れたドットをクリックするとポイントが増え、そのドットは爆発して増殖します。その繰り返しであり、まさにクリック以外にやることがありません。このゲームをプレイしていると、Clicker とはいったい何だろうと考えさせられます。一般にいう Clicker はクリックして稼いだポイントで倍率を高めたり自動化したりする要素があり、正確にはインフレ放置ゲーとでも呼ぶべきもので、本当にクリックしかすることがない Pointless こそまったき Clicker なのではないでしょうか。いや、本当になんなのか。ときどきクリックを一時的にパワーアップさせるドロップアイテムが出てきたり、累計獲得ポイントを競うグローバル・リーダーボード機能などもあるのですが、本当にだから何なのかという感じです。pointlessです。

しかしどんなにpointlessなゲームでも、きっとみっつぐらいはよいpointがあるはずです。数えてみましょう。まず第一のpointとしては、全実績の解除が簡単なことでしょうか。これで実績取得まで難しかったら発狂ものですが、ガイドに従えば15分ほどで全実績を解除できます。よかったですね。第二のpointは、定価が98円と安価な割に、Steamカードの平均額が比較的高いことでしょうか。なぜだかはよくわかりませんが、とにかくカードを売れば30~50円ぐらいは返ってきます。よかったですね。とはいえこれは記事執筆時点の話なので、そのうちこの第二の点もpointlessになるかもしれません。第三のpointまでみつけようと思うとかなり苦しくなってきますが、98円という安価かつ徹底してpointlessなゲームなので、嫌いな友人にいやがらせとしてギフト爆撃に使用できそうなところでしょうか。ある程度内容があり、ジョークとしても通じる Mountain などと違って本気で嫌われそうですが、その覚悟のある方にはおすすめできそうです。(pointlessな画像付き元記事[invalid-gamer.blogspot.jp]
Posted 31 August, 2016.
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11.6 hrs on record (4.6 hrs at review time)
1979 Revolution: Black Friday は1979年前後の革命期イランが舞台のアドベンチャーゲーム。プレイヤーはドイツへの留学(?)から革命勃発直前の故郷イランに戻ってきた青年として、彼の得意なカメラを通して革命の熱の高まりに巻き込まれていく。

イラン革命といっても日本ではあまりなじみのない話かもしれない。せいぜいが時のシャーによる強引な白色革命が宗教的反動を呼び、ホメイニー師の台頭につながったという程度だろう。しかし、いくらインディー作品とはいえ、ことは洋ゲーである。20世紀のネオコンの妄想のようなシナリオ作りからいまだに脱却できていない欧米ゲーム市場において、アメリカがその維持に公然と力を注いだ体制を打倒した革命を正面から描いた作品を売り出すというのは大変なことではないだろうか。

ゲーム性は The Walking Dead など Telltale Games のアドベンチャーゲームのそれに近い、といって伝われば話は早いが、要するに見たとおりの3Dの世界を歩き回り、人々に話しかけたりしてイベントを発生させたり、ところどころで会話や動作の選択肢を選ばされるアドベンチャーゲームである。Telltale のそれと同じくプレイヤーの選択が話の本筋を動かすことはないが、要所要所で自分の意思で主人公の行動を選択することが物語への没入感を高める役割を果たしている点は共通している。しかしながら、Telltale のそれはしょせん架空の物語であるのに対し(私も WD などは大好きではありますけどね)、こちらは現実の歴史上の大事件を題材にした物語である点を考えてもらいたい。何十万もの民衆が街頭に出て弱者の救済と殉教の尊さを叫ぶとき、国王の軍隊が自身の国民に対して銃を放つとき、群衆のひとりでしかないあなたに確かな意志があったとてなにができよう。選択を強要するわりに物語がたいして変わらない、とは Telltale 作品についてまわる批判だが、1979 でそれはどうか。主人公はあくまで大きな物語における路傍の石にすぎないのであり、それでもその中で小さいながらも自らの意志をもって動いているのだ。この違いは実に大きなものだ。

なによりこのゲーム最大の魅力は、革命の熱を実によく描けている点だ。これは遊んでいて本当に強く感じる。主人公はたまたまカメラを得意としていたため、運動に参加する友人に誘われて街頭の様子を「事実の記録」として撮影することになるのだが、歴史的事実に基づいた街頭の描写にはとてもリアリティがあり、劇中の主人公のようにプレイヤーも自然と革命に入りこんでしまう。プレイヤーが実際にカメラを動かして、なんでもない風景から決定的な瞬間までを自分の意志で撮影できる機能もまた舞台装置としてうまく働き、プレイヤーが物語に入り込む一助となっている。

物語の基本的な性格として、ドイツ帰りで西側的な感性をもち、当時のイランに発生していた事象についての知識もほぼないナイーヴな青年が革命の波に翻弄される話なので、主人公同様にイラン革命の背景について知らなくてもゲームのプレイ自体は問題なく遊べるだろう。とはいえ、主人公でも知っている1978年の情勢、例えば当時のパフラヴィー朝シャーが主導した強引な白色革命による貧富の差の拡大といったアウトラインから、死者400名を数える9・11以前の史上最大のテロで、SAVAK(秘密警察)の犯行として民衆の大きな反感を買っていた(実際の犯人は今でも不明)レックス映画館放火事件のような重要な事件などについて、プレイ前にある程度の歴史の予習はしておいたほうが楽しみやすいとは思う。

個人的に感じたこのゲームの問題点として、「歴史」に対する政治的態度の問題がある。Telltale のゲームと同じく、ゲーム中の選択はゲームの体験を鮮明にするもので、ゲームの展開を変更するものではないということは先に述べた。問題はここだ。
ゲームの開始時点は1980年、つまりさまざまな勢力が入り乱れたイラン革命がホメイニー師の勝利に終わり、イラン・イスラーム共和国が成立した時代である。主人公はそこで現体制の警察に捕まり、悪名高いエヴィン収容所に送られて尋問されることになる。主人公がその尋問中に思い出している過去こそが1978年のイランであり、このゲームのメインパートである。つまり、主人公の運命は最初から決まっており、プレイヤーがゲーム内でどのような選択を取ろうと、例えばどれだけホメイニー師に忠実であろうとしても、革命後には反革命主義者として弾圧される未来しかないのだ。これだけはどうしても不満な点として指摘しておかねばならない。
定価1180円とはインディーゲームとしても安価なほうだ。では安価なインディーにそこまで求めるべきではない? いや、個人的には単純に定価をその倍以上に設定してもかまわないので、政治的選択というデリケートな問題についてもう少し選択肢を増やしてほしかった。あるいは開発者はアメリカ在住のイラン出身者とのことで、現体制に思うところがあっての意図的なことかもしれないが、とにかくプレイヤーとしてはここだけが残念なところである。
もうひとつ、現時点ではコントローラー操作に対応していない点も指摘しておかねばならない。Telltale のゲームでは、時間制限のついた選択肢を選ぶ際において、コントローラーのボタン押下による選択は明らかにマウスクリックよりも直感的に操作でき、英語がそれほど得意でない筆者としても時間制限下の判断の余裕が断然違っていた。この点こそは安価なインディーだから諦めるべきことかもしれないが、実際にフォーラムではコントローラー対応を求める声も多く、売り上げにも直結しそうな問題である。開発者がフォーラムでの返答で将来的にはコントローラー操作に対応する予定を明言しているので、問題は時間が解決してくれそうではあるが……。

長くなってしまったが、はっきりいってこの値段のインディーゲームとしては驚きのクオリティである。あまり急いでプレイせず、オブジェクトをひとつひとつ見て回った筆者の場合、ゲーム1周に4時間程度を必要とした。これだけですでにアドベンチャーゲームのコストパフォーマンスとしてみても良好だ。(何度も名前を出してしまってアレだが)Telltale などのアドベンチャーゲームを楽しめて、歴史好きを自認する人であれば、必ずやお値段以上の体験をできるはず。現時点での2016年度マイベストインディーゲーム賞内定作。おすすめ。(元記事[invalid-gamer.blogspot.jp]
Posted 26 April, 2016.
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1
4.1 hrs on record (3.7 hrs at review time)
Home is Where One Starts... は箱庭探索タイプのアドベンチャーゲーム。舞台は主人公の故郷である米国南部のトレーラーハウスとその周辺。主観視点で主人公を操り、主人公の思い出が残るロケーションをその目で見てまわることで物語が展開していく。派手な展開などは一切なく、ただ主人公が一人でその地にまつわる思い出を語るだけである。作品紹介で言及されているとおり Gone Home フォロワーとしての性格が強く、アドベンチャーゲームとして小さくも美しい世界を作ることに成功している。

他方でその物語は大きく違う。Gone Home は二人の少女が希望をいだいて旅立つ過程をあくまで他者の視点から追体験する物語であったのに対し、Home is Where One Starts... はそれとは対称的に、一人の女性が自分自身の子ども時代の絶望と向き合い、大人として巣立つ過程を描いている。あなたはプレイヤーとして彼女自身の視点から、アルコール依存症の父によって引き裂かれたみずからの過去と向き合わねばならない。全体としては重い話だが、美しい風景の舞台を歩きまわらされることで、ゲームを通して清涼感を感じられる。そして『故郷は始まりの地』というテーマのとおり、過去から解放され、新たな人生を歩み始める彼女を象徴する美しいシーンでゲームは終わる。

ゲーム自体は1時間足らずで完結し、意地の悪い人から「ウォーキングシミュレーター」などと揶揄されることもあるが、ここには確かなひとつの物語があり、感動的な体験がある。Gone Home などについてもいわれる「インタラクティブな映像作品」といった評も、個人的にはあまり支持しない。なぜならインタラクティブな時点でこれは立派なゲームであり、ゲームでなければ得られない体験というものが両作ともに確かに存在しているからだ。
また Gone Home が定価1980円というプレイ時間に比して高めの値段で物議をかもした(個人的にはそのクオリティから全く正当な値付けだと考えるものだが)のとこれまた対称的に、Home is Where One Starts... は定価298円という驚きの安値である。必要な方に向け、また個人的な楽しみとして、日本語字幕も当方で用意した。気軽に遊べる小さな佳作として強くおすすめしたい。

レビュー全文および日本語字幕modのダウンロードはこちら[invalid-gamer.blogspot.jp]からどうぞ。
Posted 31 March, 2016. Last edited 31 March, 2016.
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